社長の幸福な引退を実現する
知的資産経営による5つの戦略とは

社長の幸福な引退には相続・承継、廃業、金融・財務改善、知的資産、セカンドライフの5つの戦略が必要です

知的資産経営による5つの戦略とは

理論体系図

中小企業白書2017年版によると、社長が60~69歳である小規模法人の8.2%、個人事業者の25.4%が、事業承継をせずに廃業すると回答しています。企業は極力、永続させたいのですが、社長はなぜ廃業を選んでしまうのか。我々はもっと、社長の立場に思いをはせ、寄り添わねばなりません。しかし一方で、多くの社長も意識改革が求められます。頭から廃業と決めつけてしまえば、廃業しか選択肢は残りようがありません。意識改革の中身として、私は5つの力を挙げています。そして次に必要なのは、5つの力を実現するために行動を起こすことです。ただし、闇雲に行わず5つの力それぞれに実現したい姿(目標)を思い描き、そこまでの道のりを計画し、定期的に進捗を確認しながら実現していくことになります。これが5つの戦略です。
なお、5つの戦略は相互に関連し合いますが、要となるのが知的資産戦略です。知的資産戦略がうまく機能すればするほど、他の戦略は力を発揮することができるのです。そこから戦略全体を「知的資産経営による5つの戦略」と呼称しています。

相続・承継戦略

意識改革の根本は、廃業しかないと決めつけず、先ずはあれこれ模索してみること。模索できる力を、自身の引退後も会社ないし事業を存続させる力=存続力と名づけています。事業を承継し、社長が幸福な引退をするための出発点は存続力となりますから、これに対応する相続・承継戦略を先ずは検討します。
検討の中心となる事項には次のようなものがあります。

  • 後継者や第三者承継の検討、後継者の育成、権限移譲の進め方
  • 金融機関や取引先および従業員への周知
  • 個人保証の取り扱い、株式や事業用資産の承継、争族の防止
  • 納税等の所要資金の確保
承継のイメージ

廃業戦略

廃業届

会社・事業を何らかの形で存続させようと努めても、やはり何ともしようがないこともあるのが、この世の現実でしょう。それは、その会社・事業の寿命が尽きたということなのです。経営者はそれを見極め、廃業やむなしと合理的に判断されるときは、果断に決断すること=見極め力も求められます。そこで相続・承継戦略を検討する中で、事業承継が困難であると判断する場合は、一転して廃業戦略を検討することになります。また最初から1代限りと決めて起業した場合は当然ながら、戦略的に廃業へたどり着くべきです。
検討の中心となる事項には次のようなものがあります。

  • 本業の収益性と改善の見通し
  • 廃業する場合の会社資産の価値、会社資産の処分の進め方
  • 金融機関や取引先および従業員への周知、それぞれの利害との調整
  • 納税やセカンドライフの所要資金の確保

金融・財務改善戦略

多くの会社が継続を断念する背景として、業績の悪さがあります。業績や財務体質が早期に改善できていれば、社長業から退くことは変わらないにしても、異なる結果をもたらす可能性があります。相続・承継戦略や廃業戦略を有利に進めるには、企業価値を増す力=増値力を発揮して、業績や財務体質を少しでも改善しておくこと。借入金がある場合は、改善のために金融機関の理解と協力を得ることが重要です。つまり、相続・承継戦略や廃業戦略を有利に進めるための手段として、金融・財務改善戦略を検討することになります。
検討の中心となる事項には次のようなものがあります。

  • 損益分岐点売上高の把握と限界利益(粗利益)の改善
  • 不用不急資産の見直し、資金繰りの改善
  • 事業計画書の作成と金融機関への定期的な事業報告
  • 金融機関に対する事業性評価の要請、本業支援の引き出し
財務改善イメージ

知的資産戦略

知恵のイメージ

中小企業では、事業をうまく回すための知恵工夫の多くが、社長や一部の従業員の頭の中にだけあることが少なくありません。しかしそれでは、社長や一部の従業員以外の者が、知恵工夫の改善に寄与することはできません。また後継者や第三者は十分に理解できず、引き継ぎようがありません。従って知恵工夫は資産と呼べる形態にまで整える力=資産化力を発揮して、予め体系化および可視化しておくことが不可欠です。そうすることで、知的資産は業績や財務改善の武器となり、また相続・承継や廃業の推進に貢献します。つまり、相続・承継戦略や廃業戦略、さらに金融・財務改善戦略を円滑に進めるための手段として、知的資産戦略を検討することになります。
検討の中心となる事項には次のようなものがあります。

  • 経営理念や経営方針の浸透度の確認
  • 知恵工夫のキャッチコピー化、業務の標準化とマニュアル化
  • 知恵工夫の契約書による権利化と保護
  • モチベーションやモラールおよび社内コミュニケーションの強化

セカンドライフ戦略

社長業を引退しても、それで人生が終わるわけではありません。新たにセカンドライフがスタートします。セカンドライフをあらかじめ設計しておく力=設計力を発揮して、社長業の引退日までにセカンドライフを構想しておかねば真に幸福な引退は実現できません。つまり、相続・承継戦略または廃業戦略と並行して、セカンドライフ戦略も検討することになります。
検討の中心となる事項には次のようなものがあります。

  • これまでの人生の振り返り(自己棚卸)
  • 新たな生甲斐の発見、セカンドキャリアの検討
  • 家族との関係の再構築
  • セカンドライフにおける資金見通し
生甲斐を表す画像