旅館女将のイノベーション(1)

旅館の女将

コロナ禍で多くの産業が厳しい経営状況になっていますが、特に宿泊業は大きな逆風にさらされています。
こうした中で、コロナを乗り切るために1億8000万円の新規借入を実現した温泉旅館の女将がいます。
この金額は約2年、売上が一切立たなくとも旅館が持ちこたえられる水準だそうです。

そのような巨額の借入が、どうして可能だったのでしょうか。
そこには、持てる知的資産を活性化させた、中小企業がぜひ学ぶべきイノベーションがあったのです。

2回に分けてご紹介します。

新規借入の意義

この借入を実現したのは、神奈川県秦野市の温泉旅館「元湯陣屋」の女将で、同旅館を運営する株式会社陣屋の代表取締役である宮﨑知子さんです。

日本政策金融公庫と民間金融機関の制度融資を利用して、あわせて1億8000万円を新規で借り入れました。

陣屋は創業1918年。100年を超える長寿企業です。
将棋の名人戦の舞台としても有名な、伝統ある高級旅館。
とはいえ、多くの経営者はおそらく自分目線で、そんな大金を借り入れて返済できるのかと考えることでしょう。

しかし、たとえコロナ禍だからと言っても、そもそも金融機関が誰に対してもやみくもに融資してくれるわけではありません。
むしろここで注目すべきは、大金を借りられたことなのです。
1億8000万円を貸しても返済できると、金融機関が評価したことが大切なのです。

金融機関との関係は「返せるか」より先に、そもそも「貸しくれるのか」ということが問題になることを忘れてはなりません。

それでは、金融機関はなぜ陣屋を高く評価したのでしょうか。

コロナ禍の営業活動

実は陣屋は2009年当時、2億9000万円の年商に対して10億円の借入、6000万円の赤字で、
あと半年で倒産という経営状況に追い込まれていました。
そのときに現女将の宮﨑さん夫妻が事業承継され(先代女将の子息が現女将の夫)、見事に経営を再建されたわけです。

その経営手腕はこのコロナ禍でも、いかんなく発揮されています。

陣屋には「陣屋コネクト」というITシステムがありますが、これには約11万人の顧客データが登録されています。
このデータの中から、直近3年間で利用があった1万人を抽出してDMを送り、宿泊や日帰りの需要を喚起しているのです。

また、陣屋オリジナルの宅配弁当や仕出し用会席仕立て膳、やまと豚桜味噌漬けなどの料理、商品を揃え、陣屋での引渡し、あるいは配達も行うようにしています。
そして、宅配弁当・仕出しも陣屋コネクトで顧客に案内し、やはりリピート需要を喚起しています。

このコロナ禍で、マーケティングの観点から分かったことが一つあります。

コロナ禍でも耐えている店舗は軒並み、リピート客のなじみの店を潰したくないという熱意に支えられているということです。
つまり、顧客との関係性を強めるマーケティング手法であるCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)は、平時以上に有事において有効なわけです。

陣屋は、かつての経営再建にあたり、ITシステムを活用してCRMに取り組んだのですが、それがコロナ禍においても功を奏しているわけです。

陣屋のイノベーション

このように、女将夫妻の経営実績があってこそ、1億8000万円の新規借入は実現したわけです。
それでは、この経営実績はどのようにしてもたらされたのでしょうか。

もちろんIT化を進めたことは大きな要因ですが、ITは飽くまでツールです。
そのツールで何を実現したのかが、より重要です。

私はそこには、中小企業がぜひ学ぶべきイノベーションがあったと考えます。

そのイノベーションとは何か。
このつづきは、次回にご紹介します。

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